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興味津々

パラグライダーでも何でも、落ちるのが自然な事

着陸態勢に入った著者

 

 

車や船に乗っていて酔ってしまい、

 

旅行が楽しくなくなる事ってありますが、

 

空を飛ぶパラグライダーは乗ってて酔うのでしょうか ?

 

答えは、『私、酔いました』

 

 

また、落ちる危険はないのでしょうか ?

 

答えは、『私、落ちました』

 

 

地に足が着かず、ふわふわ浮かんでいたら

 

そりゃぁ、酔いますよ。

 

私の場合、飛んでる時間が 1時間を超えると

 

必ず酔います。 

 

対地高度は数百メートル、

 

車を降りて吐く と言う訳にはいきません。

 

飛行機と違って足の下は何もなく、あるのは空気だけです。

 

どうしたかは、ご想像にお任せします。

 

 

そして、物体は落ちるのが自然です。

 

じゃ、なぜ飛べるのかと言うと

 

そこには難しい言葉ですが、

 

航空力学 なるものがあって、

 

その作用を借りて、空を飛べるんです。

 

 

なので、

 

飛んでるものはすべて、

 

飛行機だろうがパラグライダーだろうが

 

みんな同じ原理で飛んでいます。

 

 

その辺のことは、飛ぼうと思って

 

資格を取る時に、ちゃんと座学で教えてくれます。

 

ちゃんと飛んでいる時は、その理論に沿った動きをしています。

 

超簡単に言うと、

 

上空に持ち上げようとする力が働くように

 

翼の形を保ったまま空気を切り裂けばいいんです。

 

 

落ちる時は、理論とかけ離れた動きをしています。

 

なので、ちゃんと理論の沿った飛び方をしていれば

 

そうそう落ちることはありませんが、

 

何らかの要因で、理論に沿った飛び方が出来なくなった時に

 

落ちるのです。

 

 

では、私はどうやっておちてしまったのでしょう ?

 


私のパラグライダーはなぜ、落ちたのか

 

ここは、神奈川県の箱根寄り

 

足柄山付近にある、当時パラグライダーが

 

盛んに飛んでいた山です。

 

 

その日は少し強めの風が吹いていました。

 

普通に生活していれば 強めとも感じない位の風です。

 

ご存知かと思いますが、パラグライダーの翼は布です。

 

風をはらんで飛んでいる時は翼の形に膨らんでいますが、

 

空気を抜けば、ぺらんぺらんの布です。

 

 

ですので、風の強さにはとても気を遣うのです。

 

でも、飛べない位の風ではありませんでした。

 

現にほかのフライヤーたちは次々にテイクオフしていきました。

 

 

やがて私の番が来て、風の向きと強さの頃合いを見て

 

テイクオフしました。

 

 

順調な飛び出しです。

 

 

飛び立つ時まであれほどうるさかった仲間の話し声は

 

どんどん後ろに遠ざかり、風の音だけになりました。

 

 

後々流行り出したエンジンを背負って飛ぶ

 

モーターパラグライダーを私が頑なに拒んだのは、

 

この風の音しか聞こえない、特別な空間が

 

大好きだったからです。

 

 

上昇気流にうまく乗り、

 

高度も更に上がり、風の具合から見て

 

あと2時間くらいはずっと飛んでいられるパターンでした。

 

 

足の下には何もありません。

 

ハーネスと言う、小さな椅子に腰かけているだけで

 

右も左も前も後ろも上も下も

 

み~んな 空気です。

 

 

気持ちよく飛んでいたら

 

うっかりカラスのテリトリーへ侵入したようです。

 

カラスが飛んできて、くちばしをコツコツと鳴らして威嚇します。

 

布製の機体に穴を空けられたらたまりませんから、

 

旋回して、

 

カラスのエリアと思しき空域から離脱を試みます。

 

 

左に旋回しようとして、

 

左のコントロールコードを引いた時です。

 

急に風の強さが変わり、

 

機体の横 (右側) から突風をまともに食らいました。

 

 

パラグライダーは、機体の正面から風を取り込むことで

 

機体を膨らませ、

 

航空力学に則った羽根の形を維持して浮かんでます。

 

 

旋回をすると翼が傾き、揚力 (浮き上がろうとする力) が

 

大きく減少します。

 

大型の旅客機でも、旋回すると高度が下がります。

 

戦闘機同士が巴戦を繰り広げると、

 

あっという間に高度が下がり、地面に近づくんですよ。

 

 

つまり揚力が減った状態の時に、

 

前からではなく、横から突風に煽られたのです。

 

 

前から入ってくる空気が少ない中で

 

横から風を受けたものですから、

 

翼部分が二つに折れました。

 

左半分の翼の上に右半分が折れて乗っかった状態でした。

 

 

つまり、空気が入っているのは左の半分だけ。

 

通常は、左のコントロールコードを強く数回引くことで、

 

左の空気を右の翼に送り込んで、何とか体勢を

 

取戻せるのですが、今回は何度やっても上手く行きません。

 

 

翼のバランスが崩れてますから

 

今度は急に右に旋回が始まります。

 

このままでは旋回のスピードが増して

 

錐もみになります。

 

旋回を止める方法は、

 

旋回している方と逆のコントロールコードを引いて

 

揚力のバランスを取る事です。

 

 

ですので左を引こうと思いましたが、

 

ここで左を引いたら両方の翼が揚力を失います。

 

 

引かなければ 錐もみ状態

 

引けば僅かに残っている揚力をなくす。

 

 

「落ちる」

 

 


落ちる !!

 

翼の形が元に戻らない限り、

 

航空力学から外れます。

 

下は、うっそうとした杉林でした。

 

 

登山道がある近くは、人も入り込めます。

 

ですが、そうでないほとんどの部分は、

 

道なき木々のど真ん中です。

 

ほとんど人のいない山の中です。

 

 

機体と私は何十本と言うコードでつながっています。

 

機体やコードが木の枝に引っかかれば、宙吊りです。

 

しかも道なき場所、いつになったら捜索隊がたどり着くか分かりません。

 

 

落ちる恐怖と、

 

杉の枝で串刺しにならないかという恐怖

 

助けに来てもらえるのかという恐怖

 

 

緊急のパラシュートは装着していました。

 

地面までは、500mくらいはあったかと思いますが、

 

そもそも山肌付近を山に沿って飛んでいたので

 

パラシュートが開く高さではありません。

 

あっという間に杉の木です。

 

 

私は、落ちることは覚悟して、

 

少しでもゆっくり落ちる方法を選択しました。

 

つまり、錐もみ状態から脱して

 

出来る限り安定した姿勢で、『落ちる』 事です。

 

 

左のコントロールコードを引きました。

 

右へ旋回は少しずつ落ち着きました。

 

やがて安定してきましたが、

 

高度はどんどん下がっていきます。

 

腿に装着している高度計から

 

墜落を表す 『ビィーーーーー』 というけたたましい音が

 

鳴りだしました。

 

 

「あぁ、落ちてるぅ~」

 

 

30m程の高さの杉の木群が、みるみる近づいて来る

 

やがて、杉の木のてっぺんが見えてくる

 

私は木の枝で目を刺さないように

 

両手で顔を覆って、出来るだけ小さくなって

 

枝で止まらずに出来るだけ地面の近くまで落ちる様

 

試みました。

 

 

パラグライダーで落ちるとその後は

何事も無ければ爽快なスポーツ

 

 

バキバキッ ガサガサーー バキ ガサ バキ ガサ

 

大きな音と共に、枝に身体がぶつかる感触、

 

木の高さの途中で止まったかと思うとまた落ちだして、

 

また止まったかと思うと、また落ちて。

 

何度も繰り返してやっと止まりました。

 

 

私は恐る恐る目を開けました。

 

目は、無事でした。

 

まだ、地面までは3mくらいあるでしょうか

 

 

宙吊りです

 

ハーネスに座った状態ですので

 

楽と言えば楽なのですが、

 

宙吊りです。

 

 

手を動かしてみました。

 

足も動かしてみました。

 

無事でした。

 

 

パイロットは全員無線機を持ってます。

 

私は高校時代にアマチュア無線の免許を取りましたので、

 

そのトランシーバーで本部と連絡を取りました。

 

 

「あ~、無事だったんですね、他のパイロットから

 

 落ちていくところを見たという連絡が入ってました。

 

 で、どの辺に落ちたの ? 」

 

 

そんなことわかりませんよね、

 

死なない工夫で頭が一杯で、自分の場所なんて

 

確認してる暇なんてありません。

 

この時代は、カーナビもない頃で、

 

( 今から30年程前 )

 

GPSで探して助けに来てくれるなんてありません。

 

 

「わっ、分かりません」

 

 

「え~、じゃ分んないよ~」

 

って言われて、腹が立ってきたとき、

 

上空をパラグライダーが一機飛んでるではないですか ?

 

 

幸いなことに、私の機体は広がった状態で

 

杉の木のてっぺんに引っかかってます。

 

あの時、左のコードを引かないで

 

錐もみ状態を選択していたら

 

機体は棒状に伸びて、

 

こより のような形になって、ものすごい勢いで

 

地面にたたきつけられていたことでしょう。

 

 

 

間違いなく上空から見つけてもらえてます。

 

パイロットが手を振って合図してくれました。

 

 

「助かったぁ」

 

 

ほどなくして、無線が入ります。

 

 

「おおよその位置、確認できました、

 

 これから捜索隊を出します。」

 

 

それから4時間くらいですかね。

 

お昼前にテイクオフしたから良かったものの

 

夕方に飛び出してたら、真っ暗で

 

ますます見つけてもらえなかったでしょう。

 

 

 

私は宙吊りから解放されて、地面を踏みました。

 

 

機体も時間をかけて引っ張り下ろしてくれて、

 

奇跡的に身体は擦り傷だけ、機体は無傷 でした。

 

 

一応、サバイバルではないけれど、

 

非常食は携帯してましたので、

 

何とかなりました。

 

 

「あの時のカラス」

 

あいつに落とされたようなものです。

 

 

パラグライダーは、きちんとルールを守って飛べば、

 

思っているより安全で楽しいなスポーツです。

 

 

要は、自然や物理の法則を甘く見ないで、

 

謙虚に遊ぶことが大切です。

 

 


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